私の好きなもちつき処遇


 ※処遇=少年を指導すること。
 ※もちつき=正月恒例行事。杵でつくウサギと横からこねるウサギがいる。

 処遇にはいろいろな方法があります。
 何が正しいとか、凄いとか偉いとかでなく、職員によっても対象少年によっても違うものです。

 で、よく考えたら私はメロンパンについて語るばかりで仕事のメインである「処遇」について、
 まったくちっとも書いてなかったなーと思い至ったので、
 今日は私のよくやる処遇の中でもっとも好きなもの…名づけて「もちつき」処遇法を紹介してみます。

* *

 簡単です。 「打つ」人と、「こねる」人がいればいいのです。

 私はもちろん「こねる」方が好みですが、担任少年に限り、積極的に「打って」いきます。

 どういうことかというと…

 「何をバカなことやってるんだ!」 「それでも一級生か!」 …これが「打つ」人です。

 少年は、元々がバカなことやってきた奴ですから、当然少年院でもバカをやります。叱るネタなんていくらでも出てきます。そこはきっちり叱ってやらないといけません。
 しかし、叱られた少年の全部が「よし、なら次はこうやってがんばろう!」とできるわけではありません。どうしていいのか途方にくれたり、へこんでいじけて立ち直れない子もいるかもしれません。

 「なるほど、お前なりにがんばってるんだな」

 フォローが必要です。「打った」後に合いの手を入れるのです。つまり少年=もちを「こねる」人です。

 叱った人がそれをやろうとしても、少年は混乱します。だって、さっきまで怒ってた先生です。

 そこで、役割を決めるわけです。

 ほら、お父さんが叱ったらお母さんが優しくする、アレです。
 ギラギラの営業マンとなごみの営業マンが組んで悪徳商法をする、アレです。

 理想の組み合わせとしましては、
      「打つ」人=個別担任、 「こねる」人=寮主任。
      「打つ」人=寮のバリバリ法務教官、 「こねる」人=寮のへっぽこ法務教官。
      「打つ」人=寮主任、 「こねる」人=他の寮の先生。
      「打つ」人=寮のベテランの先生、 「こねる」人=寮の若い先生。
 こんなかんじです。

* *

(打)「日直だろう!何をやっておったんだ!」(と廊下に連れ出す)

(少年)「だ、だってあれは◇◇君が…」(ドキドキ)

(打)「◇◇のことはわかっていたはずだ。それでもお前はできると言った。
    言ったからには最後までやるのが責任ってもんだろう!」(書類をバシッ)

(少年)「や…やっぱり僕には日直は無理です」(がーんおこられた)

(打)「それがお前の答えか!もう知らん!!」(ドアをバタン)

(少年)「えーん」(泣)

   さあ泣いてしまいました。役者交代です。

(こ)「おー 何を泣いとるんだお前は」(とおりすがり風に)

(少年)「えーん 俺はちゃんとがんばってんのに、○○先生はひどい」(しくしく)

(こ)「ぜんぜん悪くないのに怒られたのか?」(よくわかってない人)

(少年)「悪くない…ことはないんです、確かに◇◇君に悪いと思うし…」

(こ)「そうか。なら謝ったのか?」(まだわかってない人)

(少年)「謝ってないです…(謝るべきだったのか…)
     けど、『もう知らん』って言い方が…見捨てられたんだ俺」(さめざめ)

(こ)「○○先生が?!
   やばいよ本気で怒ってるぞお前何言ったんだよ」(あわわわ)

(少年)「日直は無理ですって言った…」(本気で?それって俺のこと本気で?)

(こ)「そ、そんなこと言ったのか?だってお前を日直に推したのって…」(一緒に考える)

(少年)「○○先生?
     …あ…なのに俺それ裏切ってしかもできないとか言って…」(期待してくれてたのに)

(こ)「どうすんだよ お前」(背中を押す)

(少年)「…謝って、もう一回やらせて下さいって頼んできます!」(ぱたぱた走って行く)

   次にやることが決まった彼は、元気に先生のもとへ。

(少年)「先生、さっきはごめんなさい!」(がんばれ俺)

(打)「…なんだ」(無愛想だけど内心わくわく)

(少年)「考えてみたんですけど、やっぱりあれは僕の責任です。
     ◇◇君は一生懸命やってたから悪くないです。」(しんけん)

(打)「それで?」(わくわくわく)

(少年)「日直、途中で投げ出すのは無責任です。
     もう一回やらせて下さい!それが責任ってもんです!」(これが答えです!)

(打)「お…お前!よくそこまで自分で考えたな!」(感涙)

(少年)「先生ー!」(ひしっ)

* *

 はっはっは。なんだこれ。ベタベタだ。でも作るの面白かったです。

 ミソは、が見当違いのことを喋ってる間に、少年は自分で答えに辿り着いた(と思ってる)ところであります。
 そして…職員的には、もちろん○○先生は情報ツーカーです。好き放題です。掌上のかわいい孫悟空。これをうまく導いていくのが…腕の見せ所なのです。

 どうですか「もちつき」処遇法
 いつか業界用語で広まって、「今日は私が打ちますね」「じゃ○○先生こねといてもらえますか」とか言ってると面白いなあ。


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